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東京高等裁判所 平成3年(ネ)306号 判決

控訴人・被控訴人、一審原告 三里塚芝山連合空港反対同盟

控訴人・被控訴人、一審被告 国 ほか一名

代理人 中垣内健治 渡部義雄 ほか四名

主文

一  原判決中、第一審被告らの敗訴部分を取り消す。

二  右取消部分にかかる第一審原告の請求をいずれも棄却する。

三  第一審原告の各控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて第一審原告の負担とする。

事実

一1  第一審原告は、(1) 控訴の趣旨として「原判決中、第一審原告の敗訴部分を取り消す。第一審被告らは、第一審原告に対し、各自金一一二八万五〇〇〇円及び内金一〇九〇万円に対する昭和五三年五月二八日から、内金三八万五〇〇〇円に対する昭和五四年四月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、(2) 第一審被告らの各控訴につき「本件各控訴を棄却する。控訴費用は第一審被告らの負担とする。」との判決を求めた。

2  第一審被告らは、各控訴の趣旨として、主文第一、二、四項と同旨の判決を求め、第一審原告の各控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり訂正するほか、原判決の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九頁一〇行目に「同月七日午後一〇時頃まで」とあるのを「同月八日午後五時一〇分頃までの間に」と訂正する。

2  原判決一〇頁三行目に「四階上部鉄骨」とあるのを「三階上部」と訂正する。

理由

第一  当裁判所は、第一審原告の請求は理由がなくいずれも棄却すべきものと判断する。

一  第一審原告の当事者能力及び本件各差押えの違法性の有無について以下のとおり訂正、附加、補足するほか、原判決の理由の第一、第二の項(三三頁七行目から五六頁末行まで)を引用する。

1  原判決四一頁二行目に「公団法二八条違反」とあるのを「公団法二四条違反」と訂正する。

2  原判決四五頁四行目及び五四頁末行に「湮滅」とあるのをいずれも「隠滅」と改める。

3  〈略〉

4  原判決四六頁三行目に「一五〇条二号」とある次に「(平成六年法律第七六号による改正前のもの。なお、同法附則一七条参照)」を加え、同行に「その法定刑は」とあるのを「その昭和五三年当時の法定刑は」と改め、同頁六行目に「公団の除去命令」とあるのを「公団及び千葉県警の警告」と改める。

5  原判決四六頁一〇行目に「進入部分」とあるのを「進入表面」と改める。

6  原判決四九頁五行目から五一頁三行目までを次のとおり改める。

「そこで、右差押えの執行方法の適法性につき検討するに、本件第一次・第二次鉄塔差押えは、いずれも航空法違反を被疑事実として、その犯罪組成物件である「進入表面突出部分及びこれと一体をなす鉄塔、鉄骨部分」をその対象とするものであった。このように建造物の一部を差押えの対象とする場合、現状のまま現場で差し押さえることもあり得るが、それが証拠保全の必要上相当でない場合には、当該部分を建造物本体から分離して差し押さえることも、差押えの方法として当然想定されるところである。刑事訴訟法一一一条一項は、「差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。」と規定し、差押えの執行に際し、一定の有形力の行使を伴う処分を認めている。もとより、その処分は、差押えの目的を達成するために必要最少限度に止めなければならないし、その手段方法も社会通念上相当として容認されるものでなければならないと解される。

本件の場合、横堀要塞と鉄塔は、前示のとおり、新空港建設反対派の者が航空法に違反することを熟知しながら、警察や空港公団当局の再三にわたる警告を無視して構築したものであり、現に空港反対運動の拠点として反対派の者らによって占拠使用されていたのであるから、そのまま現場で保存した場合、差押対象物が毀損・改造され、あるいは隠匿されるなどして、人為的に改変されるおそれは極めて高かったと認められる(そのことは、第一次鉄塔差押えにより鉄塔及び要塞本体の三、四階部分が撤去された後に、要塞本体の三階部分が再築造された上、その上部に再び違法な鉄塔が構築されたことによっても明らかである。)しかも、当時、昭和五三年三月末の開港を目前にして、空港周辺で過激派集団による危険なゲリラ闘争が続発していたものであり(例えば、昭和五二年五月には、芝山町長宅前の臨時派出所が反対派ゲリラに襲撃され、警戒警備に従事していた多数の警察官が死傷する事件があったし、第一次差押え直後の昭和五三年三月二六日には、第四インターを中心とした反対派が、空港内の管制塔に乱入して管制機器を破壊する事件があった。〈証拠略〉)、このような情勢にかんがみれば、たとえ看守者を置くなどの措置を講じたとしても、多くの混乱が発生することは避けられず、差押えの目的を保持することは困難であったと考えられる。また、第一次・第二次鉄塔差押えの時点では、要塞本体の差押許可状は発付されていなかったから、要塞の通路・出入口を遮断する等の方法をとることによって要塞本体の自由使用までを制限することは、困難であったと考えられる。そして、本件差押えは、航空法違反を構成する本件鉄塔等の存在と形状そのものを保全することにあって、同法違反の違法状態を保全することにあったのではないから、これらを要塞本体から分離・搬出し、現状の復元が困難になったからといって、その執行方法が証拠保全の目的と矛盾するということはできない。

また、本件鉄塔と横堀要塞は、前示のとおり専ら違法な目的の下に建築されたものであって、およそ一般の住居や事務所と同様に財産としての価値や平穏な生活が保障されるべき建物としての通用性を有していなかったと認められるから、その一部(航空法違反部分)を溶断して搬出したからといって、これにより第一審原告らの権利ないし利益が不当に害されたということはできない。むしろ、現状のまま差し押さえたのでは、犯罪組成物件を事実上当該犯人らの手に委ねて違法状態を放置する結果となってしまい、差押えの執行の方法として社会的妥当性を欠くことになったというべきである。

そうすると、本件鉄塔等の差押えの執行方法は、差押えの目的を達成する上でも、執行方法の社会的妥当性の点からみても、違法不当にわたるようなところは認められず、これが違法であるとする第一審原告の主張は採用することができない。」

7  原判決五二頁四行目に「未遂との犯罪」とあるのを「未遂の犯罪」と改め、同頁八行目に「投げつける等の行為」とある次に「あるいはクレーン車を使って要塞屋上に接近した警察官を殺害する目的で手持ちパチンコで鉄片石塊を発射する等の行為」を加える。

8  原判決五四頁三行目の次に行を改めて、次のとおり加え、同頁四行目に「〈4〉」とあるのを「〈5〉」と改める。

「〈4〉 前記兇器準備集合等の被疑事実については、その犯行時に証拠保全のための写真撮影等が行われ、現認者も少なくないと推認されるが、前記のとおり横堀要塞は、犯罪行為の供用物件であって「没収すべき物と思料するもの」に該当する上、その証拠価値は大きい。また、要塞自体は直接公判に顕出することはできないが、公判裁判所が直接検証する必要もないとはいえず(裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面の方が捜査官による検証の結果を記載した書面よりも証拠能力及び証拠価値が高いと考えられる。)、関係者による原状変更の可能性があったといわざるを得ないことは先に述べたとおりであるから、横堀要塞についてその捜索差押許可状と同時に検証許可状も発付され、検証が行われて検証調書が作成されていることを考慮しても、要塞の差押えの必要がなかったということはできない。加えて、刑事事件の捜査及び審理には流動的な要素があるから、捜査担当者が証拠をできる限り保全しておこうとすることは、関係者に不当に不利益を与えるものでなければ、むしろ当然のことというべきである。」

9  原判決五五頁三行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「なお、第一審原告は、本件横堀要塞が犯罪供用物件に該当するとしても、第一審原告の所有する物であって、本件犯行(昭和五三年三月二五日から同月二七日にかけての横堀要塞等に対する捜索差押えの執行に際して行われた兇器準備集合・公務執行妨害・火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反及び殺人未遂の各犯行)の犯人らの所有する物ではないから、刑法一九条一項二号、二項本文によっては没収することができず、したがって、「没収すべき物」に当たらないと主張する。

しかしながら、差押えの対象物としての「没収すべき物と思料するもの」とは、当該事件の判決において没収の言渡しのなされる可能性のある物であって、必ずしも没収しうる物と同じではない。そして、前記認定の事実及び〈証拠略〉によれば、横堀要塞は、本件犯行の犯人らとその支援者らが、設計及び工事の監督を担当するとともに、その労力を提供して建築した建物であり、その建築資金も犯人らが所属する中核派や第四インター等の団体が全国に呼びかけて集めたものであって、第一審原告の同盟員である本件犯行の犯人らがこれを占拠使用していた(もとより第一審原告の名義で所有権保存登記がなされたこともない。)ことが認められる。そうとすれば、横堀要塞は、本件犯行の犯人らが事実上これを支配し実質的に所有していたと認められるから、千葉県警察が、これを「没収すべき物」と判断して差し押さえたことに何らかの違法もない。」

10  原判決五六頁六行目から一一行目までを、次のとおり改める。

「その執行方法も相当であって違法と評価される点は認められず、各令状を発付した裁判官に右にいう特別の事情があると認めるに足りる証拠はない。」

二  結論

以上の次第であるから、第一審原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

第二  してみると、原判決中、第一審原告の請求を棄却した部分は相当であるが、請求を認容した部分は不当である。

よって、原判決中第一審被告らの敗訴部分を取り消し、右取消部分にかかる第一審原告の請求をいずれも棄却し、第一審原告の各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊 小圷眞史 高野輝久)

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